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札幌地方裁判所 平成元年(行ウ)11号 判決 1992年12月25日

札幌市東区北二八条一八丁目五番二〇号

原告

池下照彦

右訴訟代理人弁護士

大和田義益

右同

本間裕邦

右同

三木正俊

札幌市東区北一六条東四丁目

被告

札幌北税務署長 前田隆司

右指定代理人

栂村明剛

右同

箕浦正博

右同

高橋重敏

右同

高橋徳友

右同

松井一晃

右同

荒木伸治

右同

平山法幸

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、昭和六三年四月一一日付で原告の昭和六一年分所得税についてした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が、第一の請求欄記載の各処分が違法であると主張してその取消を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、昭和六〇年九月一六日から内科を診療科目とする札幌東和病院(以下「東和病院」という。)を経営する医師で、いわゆる青色申告者(所得税法一四三条による青色申告の承認を受けている居住者)であるが、右病院を経営するに至る前に開業を計画した札幌旭ヶ丘記念病院(以下「記念病院」という。)の設立準備過程で、昭和五八年七月一四日、株式会社常光(以下「常光」という。)から三五〇〇万円を借り入れ、昭和五九年一二月一一日から昭和六一年一月二〇日までの間に、常光に対し、元利四〇一五万二一四〇円を支払った(以下「本件支出金」という。)。

2  ところで、原告の昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの年分(以下「昭和六一年分」という。)の所得税に係る課税処分等の状況は別表記載のとおりである。 すなわち原告は、昭和六一年分の所得税確定申告書に別表の(1)確定申告欄記載のとおりに記載し、これを法定申告期限内である昭和六二年三月一四日に被告に提出したが、これと同時に昭和六一年分所得税青色申告決算書をも被告に提出した。

その後原告は、別表(2)及び(3)の各修正申告欄記載のとおり二回修正申告を行い、これに対し被告は、別表(4)の賦課決定処分欄記載のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をなした。しかし、原告は、本件支出金を、必要経費にあたるとして、任意償却することとし、昭和六一年分所得税確定申告にあたり単年度一括償却していたことに対し、被告から修正申告をするよう指導を受けていたが、右各修正申告にあたり、これを含めていなかったので、被告は昭和六三年四月一一日付で、別表(5)更正等処分欄記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各処分」又は「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という)をした。

原告は本件各処分を不満として同年五月二〇日、被告に対し別表(6)欄記載のとおり異議申立てをしたが、被告は、同年七月八日付で別表(7)欄記載のとおり棄却する旨の異議決定をなし、更に、原告は、同年八月四日に国税不服審判所長に対し別表(8)欄記載のとおり審査請求をしたが、同所長は、平成元年五月一七日付で別表(9)欄記載のとおり棄却する旨の裁決をした。

二  争点

本件各処分は適法であるのかどうか。すなわち、被告が、本件支出金を、原告の事業の必要経費と認めなかったことが適法であるかどうかが本件の争点である。

1  原告の本件各処分に対する違法性の指摘

原告は、本件支出金を以下に述べる経緯で支払い、かつ必要経費に該当するものとして任意償却したのであるから、これを必要経費に算入することなくされた本件各処分はいずれも違法であり取消を免れない。

(一) 原告は、昭和五六年ころから、病院の開業を考えるようになっていたところ、翌年七月ころ、知人である堤トヨから五〇〇〇万円の借用の申入れがあり、堤は右金員の借用ができれば、原告が病院用地として適切と考え買受けを希望していた堤所有の札幌市中央区旭ヶ丘四丁目一八九四番地一二筆の土地(以下「旭ヶ丘の土地」という。)を確保するという条件を示した。そこで、原告は、右用地確保のため昭和五七年八月二日、北海道拓殖銀行川沿支店から原告名義で二〇〇〇万円、妻池下洋子名義で一五〇〇万円を借り入れ、三五〇〇万円の銀行保証小切手とし、堤に貸し渡した(三五〇〇万円しか用意できず、堤もこれを承諾した。)。

(二) 原告は、昭和五七年秋から病院開設のためのスタッフを手配し、同五八年四月、記念病院開設準備室(以下「準備室」という。)を開設した。病院開設を計画し、開業するのは、あくまでも原告が主体であり、対外的には年長で先輩である伊藤一を代表としたが、最終的な経営責任は原告がとることになっていた。

準備室として旭ヶ丘の土地を確保すべく、原告は堤と話し合いをし、手付金五〇〇〇万円を支払い、右金員から原告は、前記昭和五七年八月二日の貸金の弁済を受ける同意を得た。そこで、準備室代表伊藤名義で常光に五〇〇〇万円の借入を申し込んだが、三五〇〇万円しか貸付しないという返答であったため、堤の了解を得て、原告らが連帯保証人となって、伊藤名義で三五〇〇万円を借り入れ、同日右金員を堤に旭ヶ丘の土地の手付金として支払い、堤は原告に対し右金員を昭和五七年八月二日借用した金員の返済に当てた。

したがって、原告は、右借入金の連帯保証人となっいるが、実質的には右借入金は原告自身の債務である。

(三) 原告は、開業準備を進めたが、スタッフの確保及び旭ヶ丘の土地での開業の困難性から、旭ヶ丘の土地での開業を断念し、堤に交付した手付金三五〇〇万円は放棄した。

そして、原告は、現在の開業地を見つけて東和病院を開設し、当初の目的を達成した。

(四) ところで、事業開設に際し、将来の事業の成否を考えて採算性のない用地を放棄し、採算性の高い土地を選択することは事業遂行のため通常かつ必然的なことであるから、その選択の過程で採算性のない用地獲得を断念し、用地購入のために支払った手付金を放棄することにより生じた損失(本件支出金)もまた必然的に生じたものである。

したがって、右損失は、事業遂行上通常かつ必要的に生じたものとして、必要経費となるが、原告がまだ事業を開業していない開業準備段階のものであり、開業のために欠くことのできない費用であってその支出の効果は開業後の各会計期間に及ぶものであるから、所得税法二条一項二〇号の繰延資産として、同法施行令七条一項一号の開業費にあたるものである。

(五) そして、開業費については、当該年分の確定申告書に必要経費に算入すべき金額を記載することによって任意の年度に任意の金額を償却することを認めているから(所得税法施行令一三七条三項)、原告は、昭和六一年分所得税確定申告にあたり、右損失をこの任意償却に基づき、単年度一括償却したのである。

2  被告の本件各処分に対する適法性の主張

(一) 本件更正処分の適法性について

(1) 本件支出金は、原告が経営している東和病院とは無関係に、原告らが過去に計画した記念病院の設立の関係で支出されたものであるから、原告の事業と客観的に合理的関連性をもつ費用でもなく、右事業ないし開業をなす上で必要なものと客観的に判断される費用でもない。

すなわち、東和病院が、原告の単独経営にかかるものであるのに対し、記念病院は複数の者の共同経営が予定されていたのである。また、東和病院の施設は札幌市東区北三〇条東一八丁目の土地に建築されており、鉄筋コンクリート五階建、ベッド数二一〇床であり、その設立目的・医療内容は、内科であり、老人医療が主であって、救急医療を受け持つことは予定されていない。これに対し、記念病院の施設は、旭ヶ丘の土地に建築が予定されていたのであり、鉄筋コンクリート三階建、ベッド数九二床として計画され、その設立目的・医療内容は内科であり、救急医療を受け持つ専門病院として予定されていた。さらに、東和病院の設立資金に関し、原告は、昭和五九年九月六日付で住友生命保険相互会社に対し、一一億三〇〇〇万円の融資を申し込み、同年一〇月八日、一〇億五〇〇〇万円の金銭消費貸借契約を締結し、調達している。これに対し、記念病院の設立費用は、湯浅商事株式会社が、原告らが自己資金二億円を準備することを条件として、融資先を斡旋する予定であったものと解される。

このように、両病院は、経営主体、設立目的、医療内容、病院の設置場所、その規模、資金の調達先、調達方法等が異なっているのである。

(2) したがって本件支出金を、所得税法二条一項二〇号の繰延資産として、同法施行令七条一項一号の開業費にあたるとして右金員を原告の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないものであるから、被告の本件更正処分は適法である。

(二) 本件賦課決定処分の適法性について

(1) 昭和六二年法律九六号による改正前の国税通則法(以下「法」という。)六五条一項の規定に基づく加算税額 一三六万一〇〇〇円

本件更正処分により増加した税額二七二二万円(本件更正処分による納付すべき税額一七一四万六二〇〇円及び原告が昭和六二年一一月二五日付をもって被告に提出した修正申告による還付金の額に相当する税額一〇〇七万九四一一円の合計額二七二二万五六一一円で、かつ法一一八条三項により一万円未満を切り捨てた金額)に一〇〇分の五を乗じた金額である。

(2) 法六五条二項の規定に基づく加算税額 九六万円

本件更正処分により増加した税額二七二二万円(法一一九条一項により一〇〇円未満を切り捨てた額)に法六五条二項に規定する累積増差税額一七四万七八〇〇円(法六五条三項一号による金額、すなわち、原告が昭和六二年一一月二五日付をもって被告に提出した修正申告により増加した税額で、法一一九条一項により一〇〇円未満を切り捨てた金額)を加算した金額二八九七万三四〇〇円と法六五条二項に規定する期限内申告税額に相当する金額九七七万一八五〇円(法六五条三項二号本文及び同号イによる金額、すなわち確定申告に係る源泉徴収税額四二七〇万八八一一円から還付金の額に相当する税額三二九三万六九六一円を控除した金額)との差額一九二〇万円(法一一八条三項により一万円未満を切り捨てた金額)に一〇〇分の五を乗じた金額である。

(3) 被告は、右(1)の金額に(2)の金額を加算し、その合計金二三二万一〇〇〇円をもって、過少申告加算税を賦課決定したものであるから、本件賦課決定処分は適法である。

三  争点に対する判断

1  本件借入金と病院設立計画とを巡る事実関係

証人伊藤一、同佐藤護、原告本人、甲一ないし八、甲九の一・二、甲一〇の一ないし三、甲一一ないし一四、乙一〇の一ないし一三、乙一二の一・二、乙一三ないし二一、乙二二の一・二、乙二三ないし二八、乙三七ないし四〇及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。 なお、甲一三、証人佐藤護の証言及び原告本人尋問の結果の中には、記念病院の開設準備に際しては、原告が実質的に中心となっており、最終的責任をとる予定であった旨の記載、証言及び供述があるが、これらは、証人伊藤の証言及び乙二四によると、伊藤としては自分が中心であるとの認識をもって農協から五〇〇万円、常光から六六〇万円を借り入れてその準備資金としたり、公聴会に出席したり、あるいは別の病院用地を捜しに行く等右準備に積極的に関与していたことが認められ、また乙二九の一、三九、四〇によると、常光が原告、伊藤及び佐藤に対して提起した貸金請求訴訟において、原告及び佐藤は、伊藤が実質的にも中心であり、資金的には原告、伊藤、佐藤の三名が共同して責任を負う約束であった旨の後記認定に沿う供述をしていることが認められるから、右事実に鑑みると、いずれも信用できない。

(一) 準備室の設立

原告は、昭和五八年四月ころ、伊藤一、福屋祥三、長尾恒の三名の医師と事務方である佐藤護と共に、伊藤を代表委員とする準備室を発足させ、旭ヶ丘の土地に、病院開業の準備を始めた。 原告らは、いずれも法律に詳しくなく、明確な表現はされていないものの、確認書(乙一九)に一切の責任を互いに負担するとの文言を入れ、特に誰か一人が責任者ということなく、各人、特に原告、伊藤、佐藤の三名がすべての責任を等分に負担する共同経営という意識を有していた。しかし、年長者の伊藤に敬意を表して、病院長にすることとし、資金繰りの中心となる予定の医療金融公庫からの融資は、伊藤の名義で借り入れることとして、準備を進めていた。

旭ヶ丘の土地は、原告が確保してあったが、風致地区で第一種住居専用地域であるため、市の了解を得た上、地元で住民の公聴会も開催する必要があり、伊藤がこれに出席した。土地についての契約その他の手配は、原告に任されていた。

最初に原告らは、湯浅商事株式会社と業務委託契約を締結し(乙二〇、二一)、開設予定地調査、事業計画書の作成、資金調達の斡旋を委託し、契約金二〇〇万円を支払った。原告らは、湯浅商事株式会社に対し、ベッド数九二床で、医師四人による救急医療を行う病院であること、自己資金は約二億円用意できることを述べていた。

(二) 常光からの借入金を巡る事実関係

(1) 堤は、昭和五七年ころ、旭ヶ丘の土地についていた担保権の被担保債務の弁済にあてるため、原告に対し、旭ヶ丘の土地を病院用地として確保するために右弁済金五〇〇〇万円を貸してほしい旨申し込んだところ、原告としては、旭ヶ丘の土地を確保したかったが故に、これを承諾した。

(2) そこで、原告は、昭和五七年八月二日、北海道拓殖銀行川沿支店から原告名義で二〇〇〇万円、原告の妻池下洋子名義で一五〇〇万円を、期間一年の約定で借り入れたが(乙一〇の二・三)、これを同日右川沿支店振出の額面三五〇〇万円の自己宛小切手とし(乙一〇の四ないし六)、この小切手を堤に交付し、 もって右金員を堤に貸し付け(乙一〇の七)、堤は同日原告に対し、三五〇〇万円の領収書を交付した (なお、右領収書のただし書きには、「昭和五七年八月二日、原告に差し入れた借用証書五〇〇〇万円の内金として受領した」旨が記載されている(甲一、二)。)。

(3) 他方、記念病院の資金調達として、伊藤は、準備委員会の代表委員としての立場で、昭和五八年七月一四日、常光から三五〇〇万円を借り入れ、原告及び佐藤は連帯保証人となった(甲三)が、原告は他のメンバーに、この資金は旭ヶ丘の土地の所有者である堤に対し、手付金として交付して土地を押さえておくものであると説明した。常光は、三五〇〇万円を現金で用意し、原告がこの現金を持って行った(なお、開設準備事務局代表との肩書の伊藤にあてられた堤作成名義に係る昭和五八年七月一四日付の三五〇〇万円の領収書(甲四)が存在するが、原告は、この三五〇〇万円を堤には渡していない。)。

(4) 原告は、同日、右借入金を北海道拓殖銀行川沿支店に対する原告名義の借入金二〇〇〇万円及び池下洋子名義の借入金一五〇〇万円の残額一〇二〇万円の合計三〇二〇万円に対する弁済資金とし現金で弁済している(乙一〇の一二・一三)

(5) 原告が、右借入金を原告の借入金の弁済に充てることについては、他のメンバーの了承は得ていないし、堤もまた、当時現金が必要であったから、現金で三五〇〇万円を手付金として渡してもらえると思っていたのに、原告から一方的に相殺勘定にすると通告されたものである。

(三) 記念病院共同経営計画の挫折

(1) 昭和五八年七月一四日になって、救急救命病院の有資格医師である長尾医師が突然脱退の意思を表明し、続いて福屋医師も脱退の意思表示をした。原告らは後任の医師を補充することはできなかった。

(2) そこで原告らは、昭和五九年にかけて病院の性格を救急医療を担当しない老人病院に性格を変えることを検討したり(甲一二)、他の病院を視察しに行く等して計画を進めるべく努力した。しかし堤は、同年四月に、土地の契約金の支払等が当初の約束どおり履行されず、資金面での不安があることから、旭ヶ丘の土地を病院用地として提供する契約の破棄を通告してきた。また湯浅商事株式会社は、救急病院でなければ、旭ヶ丘の土地の建蔽率の制約等の条件に基づく病院規模の制約からして経営が成り立たないとの意見書を提出し、昭和五八年一二月には、医師四人で救急医療を行い、自己資金が二億円用意できるとの当初の条件が満たされないのであれば商談を中止する旨通告し、その後もこれらの条件が改善されなかったので、昭和五九年九月には、最終的に解約の申し出をした(乙一八)。

(3) また、前記のとおり、常光からの借入金が、堤に現実に交付されず、原告の北海道拓殖銀行川沿支店に対する借入金の返済に充てられたことが伊藤、佐藤らの知るところとなって原告との信頼関係が破壊され、相互の感情的くい違いもあって、昭和五九年秋には、病院の共同経営の計画は頓挫した(乙四〇)。

(四) 原告の東和病院の開設と常光への借入金の弁済

(1) 原告は記念病院の共同計画がうまく行かなくなっていく時期と並行して、昭和五九年夏ころから、独自に病院開設の計画を立て、住友生命保険相互会社より原告個人が一〇億五〇〇〇万円の融資を受け、昭和五九年一〇月九日札幌市東区北三〇条東一八丁目八番四の土地を購入し(乙一六、一七、乙二二の一・二)、同六〇年九月一六日、専門の老人医療を行う病院として東和病院を開設した(乙一四、二三)。

(2) 常光の専務服部平八郎は、常光からの借入金を原告が自己の借入金弁済のために費消したと聞き、原告に対しその弁済を催促した(甲六、七、乙三八)。

原告は、常光に対し、昭和五九年一二月一一日から同六一年一月二〇日までの間に本件支出金である元利合計四〇一五万二一四〇円を支払い(甲八、甲九の一・二、甲一〇の一ないし三)、同六一年一二月一〇日、伊藤に対する求償債権を放棄する旨の書面を伊藤の住所地に対して送付した(甲一一)が、伊藤は当時洞爺湖温泉町の病院を経営して同所に居住していたため、これを受け取っていない。

伊藤、佐藤らは、前記のとおりの原告の常光からの借入金の処理に関して原告に不信を抱き、原告が費消した以上は原告が返済すべきであると考え、求償には応じないつもりでいる。

2  本件支出金と原告の事業との関連性

(一) 以上認定のとおり、原告は、常光からの借入金を、旭ヶ丘の土地を記念病院の用地として確保する目的で堤に貸し付けた貸付金の借入先への返済にあてたが、共同経営予定者らとの間ではその旨の合意ができていなかったために、これらの者の不信を買う等して、共同経営計画は破綻し、その結果、原告が右借入金の弁済を事実上単独で行わざるを得なくなり、その弁済金が本件支出金である。

(二) また、前記認定事実を総合すると、記念病院は、原告らの共同経営にかかる救急医療を主体とした病院として旭ヶ丘の土地にその設立が計画され、常光から資金を借り入れたり、湯浅商事株式会社に業務委託したりして開業準備が行われたが、一部の医師の脱退や資金繰りの困難性、土地の制約による困難さ等及び原告の常光からの借入金の使用についての確執から、右計画が挫折したものと認められ、さらに原告が現在経営している東和病院とは、経営主体、医療内容、所在地、資金調達方法等において大きな相違があり、記念病院の計画と東和病院の計画及び開業とが一連の事業とは到底解せられず、独立した別個の事業計画であったというべきである。したがって、仮に本件支出金について、それが記念病院の開業準備として関連性が認められるとしても、原告の現在の事業との関係においては客観的合理的関連性は認められず、また原告の右事業の遂行のために必要な支出であったとも認められない。

(三) なお原告は、記念病院の開業は原告を中心とする実質的には原告の事業に他ならないとの前提にたった上で、記念病院の開業準備及び東和病院の開業は、自己の一貫した病院開業の意思に基づき遂行された一連の開業準備行為である旨主張し、これに沿う原告本人の供述もあるが、右の前提自体が認められないことは前述のとおりであり、また、業務との関連性及び必要性の有無は、客観的に判断されるべきものであるところ、原告が一貫して病院開業の意思を有していたとの点は、主観的認識に過ぎないから、このことを理由として事業との関連性及び必要性を肯定することはできない。

3  結論

以上のとおりであるから、本件支出金を原告の事業所得金額の計算上必要経費とは認められないことを前提とした本件更正処分及び賦課決定処分には、いずれも取消さるべき違法な点は存在しない。

よって原告の本件請求をいずれも棄却する。

(裁判長裁判官 大澤巖 裁判官 永井裕之 裁判官 櫻井佐英)

<省略>

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